大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)2417号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判旨〕刑訴法第二九一条第二項に規定する公判廷における被告人の黙秘権及び権利保護の権利のある旨の告知は、個人の基本的人権保障に関する重要な訴訟手続であることは所論のとおりであり若しこの手続を履践することなく訴訟が進められたならば爾後の手続は違法であることは疑のないところである。しかるに刑事訴訟規則第四四条は右刑訴法第二九一条第二項に定める事項を告知したことをもつて公判調書の必要的記載事項から除外しているのであるが、これが所論のように規則をもつて法律を変更するものであるかどうかにつき按ずるに、刑訴法はその第四八条に公判調書には裁判所の規則の定めるところにより、公判期日における審判に関する重要な事項を記載しなければならない旨規定しており、公判調書には公判期日における審判に関する重要事項を悉皆記載すべしとは命じていないのである。その如何なる事項を記載するかということは憲法が訴訟手続事項について規則制定権を与えた最高裁判所の規則に専ら委ねられているのである。而して公判調書に如何なる事項を記載すべきか否かということは正に訴訟に関する手続事項に属することは明らかであるから、最高裁判所の規則である刑事訴訟規則によつて公判調書に記載すべき事項を定めることは憲法がこれを認容しているのである。よつて刑事訴訟規則第四四条の規定は所論のように法律の規定を改変したものと認めるべき筋合は全く存しない。

ところで刑訴法第二九一条第二項に定める事項を告知したことを公判調書の必要的記載事項から除外した趣旨を推量するのに、この手続は訴訟の基本であつて、この手続を履践せず裁判官が故意に爾後の手続を進行させるようなことは考えられないところであり、若し仮に裁判官が過つてこの事項を告知することなく爾後の手続に進もうとしたならば、よろしく弁護人或は検察官は裁判官に対しこの事項の告知を為すべき旨を申し入れ或は注意して裁判官にこれを履践せしめれば足りるのである。これ当事者訴訟主義の本領であろう。よつて重要事項ではあるけれども、公判調書の簡易化の為これを必要的記載事項から除外したものと認められる。しかし裁判官が弁護人、検察官からの申入或は注意があるにも拘らず、なおことさらにこの告知をしなかつたのならば、その時はよろしくこの告知のないことに対する異議を述べこれを公判調書に記載させて置くべきものであり、又異議を述べなかつたとしても真実裁判官がこの手続を履践しなかつたのならば公判調書以外の資料によつてもこれを証明しうるのであるから、公判調書にこの異議を述べたことの記載がなく、且つこの手続が履践されなかつたことを証明するに足る資料の存在しない以上は、公判調書に裁判官が告知をした旨の記載はなくとも当然適法にこの手続は行われたものと推定すべきものである。而して本件公判調書には勿論右異議を述べた旨の記載も亦原審裁判官が右告知をしなかつたという資料も存在しないのであるから、原審訴訟手続には所論のような違法は認められず、論旨は理由がない。

〔説明〕二七・二・一より施行された改正刑事訴訟規則第四四条によつて公判廷における訴訟手続と公判調書の記載との関係が、必要的記載事項が大幅に縮少された結果、種々問題となり未だこの種の論旨が多く控訴審での控訴趣意として採り上げられ訴訟手続の違背として争われている。当庁の判例は夙に本誌第二四号第一八事件として数種の訴訟手続に関するものを紹介したが、大体の判例の傾向はその後も少しも変つていない。本判決もこの線に添うものであるが特にここに繰り返し掲げた趣旨は判決前半に関する点を取りあげて置きたかつたからである。即ち黙秘権は憲法第三八条第一項により国民の基本的人権の一として掲げられ、これを受け刑事訴訟法がその第三一一条でこれを確認しこれに関連して第二九一条刑訴規則第一九七条によつて訴訟が開始される冒頭手続においてこの黙秘権及びこれに関連する事項の告知を不可欠の要件と定めて右人権の保護の全きを期している。それだからといつて直ちに、公判調書にこれを記載しなければならない、又これを必要的記載要件としなかつた刑訴規則第四四条は違憲だ違法だと論断するのは余りにも飛躍した考方でなかろうか。公判調書の必要的記載を如何なる範囲にとどめるかは別個の観点から定められて一向に差し支えないと思われる。又事実上公判手続として履践されたがどうかということが公判調書の記載によつて左右されるものでもない。只刑訴法第五二条によつて公判調書に記載された訴訟手続はこれのみによつて証明されるのである。

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